日々雑感

元牛飼いの会社員です。時折、考えたことを書いています。

【FB2017年2月19日投稿を転載】「堀潤の伝える人になろう講座『シリアを知る夜』」に参加

先日、「堀潤の伝える人になろう講座『シリアを知る夜』」に参加。非常に興味深い内容だったので記録も兼ねて。
スピーカーは、そもそもはアジア文化を(欧米経由ではなく直接)アラブ世界に伝えるため、1997年に来日したシリア人ジャーナリストのエルカシュ ナジーブ氏。思い込みを極力排し、苦しみながらも物事の一つ一つを虚心坦懐に見つめ、“明らめ”ようとする姿勢に共感。
今までいまいち理解しづらく、故に他人事と感じがちだったシリア問題を初めて自分事、或いは隣人事として受け止めました。
特に印象に残った部分等を以下に記します。メモを取ってなかったのが悔やまれます。
(注:Najib氏が語られた視点を「私が理解した範囲で」記したので解釈誤り等あるかもしれません。すみません。)

◆内戦勃発前のシリア行ったことのある日本人は、「あんなに平和だったのになぜ。」「ホテルでもないのに家に泊めて歓待してくれ、(例えばエジプトやトルコのような商売っ気の強い国と比べ)シリアは素晴らしかったのに。どうしたらあの頃のシリアに戻れるのか。」と言う。
しかし、シリア人であるNajib氏に言わせれば、「独裁政権により、1960年代以降のシリアでは観光業含め様々な産業が自由に出来なかった。結果、人々は商売としてではなく旅行者を泊めたりもした。それは旅行者にとっては素晴らしい体験かもしれないが、シリア人にとっては既に良い状況では無かった。商業的であっても、貧しいより国が発展したほうが良い。必ずしも『独裁=悪』では無く、経済的発展を成し遂げる“良い独裁”も存在し得るが、シリアの場合、経済的発展も政治的自由もどちらも無かった。」
◆「この写真の6人のうち、一人だけ宗教が異なります。どの人ですか?」と。写真に写るのは、ウサマ・ビン・ラディンから始まり、他、アラブ世界の指導者達、そして、ブッシュ米元大統領。




正解はもちろんブッシュ、、、では無く、ウサマ・ビン・ラディンイスラム教徒)。
それ以外の5人はキリスト教徒。
考えてみれば、汎アラブ主義の指導者達がキリスト教徒なのは自然なこと、と。
アラブ諸国ではキリスト教徒は少数派、よって、イスラム教徒が多数派を占める各国内で存在感を示しづらく、“国を超えたアラブ世界”の枠組みを好み、そこに後からイスラム教徒が乗っかった、と。
ここからも分かるように、“アラブ”と“イスラム”は別物で、時に対立的関係性にある。
◆現在のシリア情勢は非常に複雑。元々は独裁政権があり、それに対する民主化運動が起こった。民主化を好まない政権側は、同じく民主化を好まないイスラム原理主義者達(アル・ヌスラ戦線?)の力を利用するため、数百人の原理主義者を敢えて刑務所から釈放するなどした。民主化運動側からも、非暴力グループと武装グループが複数生まれた。この混乱に乗じ、国を跨ぐ過激派組織ISがシリアで勢力を広げた。更に、アサド政権側にはロシアがどっぷり援助、民主化運動側にはアメリカが時折・気まぐれに援助。
このように様々な立場・思惑が入り混じっている状態。シリア国内で人命救助を行うNGO(White Helmets)さえも資金面で紐付きであり、活動自体は尊いが、目的はプロパガンダ
一方、一般のシリア人も、今となっては自らの思想と関係なく、食べるため武装勢力に入らざるを得ないことも。
ちなみに、アサド政権はイスラムアラウィー派だが、宗派はシリア問題の争点ではない。
◆Najib氏としてはシリアは国際社会に見捨てられていると感じている。イラクで懲りた米国はシリアに積極的に介入しないが、介入・非介入の判断を誤った。イラクではなく、シリアに介入すべきだった。シリアでは政権側による虐殺等、大規模で深刻な人権侵害が起こっている。しかし、中東への理解が薄いトランプ大統領誕生で、適切な介入への望みが更に薄くなった。
日本も、昨年末のプーチン大統領来日の際等、ロシアのシリア介入についてもっときちんと懸念表明・非難することは出来るはず。言っても変わらないかもしれないが、言わないよりずっといい。

極めて理性的なNajib氏でしたが、シリア国内での残虐行為について触れる際など数回、湧き上がる感情に言葉を詰まらせる場面も。我が身に置き換えて考えれば、生まれ育った日本に同じような事態が起こったとしたら、どれほど辛いことだろう、と胸が痛みます。
一体自分にできることは何か、と自問しつつも、まず「無関心は罪」であることは確か。そしてまた、この講座のテーマである「伝える人になる」ことも自分にできることの一つだろうと思います。

このテーマを取り上げてくださり、また、プロフェッショナルな素晴らしいファシリテーションをしてくださった堀氏にも深く感謝します。

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